『投資で一番大切な20の教え』 

『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』Howard Marks

 投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識

『投資を成功させるには、数多くの独立した要素に同時に思慮深く注意を向ける必要がある。一つひとつの「一番大切なこと」が、強固な壁となるべきものを構成するレンガなのであり、どれが欠けても困るのだ。』

 

米国の逆張りファンド、オークツリー・キャピタル・マネジメントの会長ハワード・マークス氏の著。

彼が率いるオークツリー・キャピタル・マネジメントは「リーマン・ショックで最も稼いだ運用会社」として有名だ。

 

本著は、彼が数十年のキャリアで培った投資哲学を20の教えとして伝えてくれる。

 

マクロ経済の動きに注視し、高度な財務分析を駆使する方法を本書は教えてくれない。

本著が伝えてくれるのは不完全で移ろいやすい市場にいかにして対峙すればよいか、その心構えだ。

 

マーケット参加者は時にして信じられないほど強欲になる。

強欲はバブルを生み、そしてバブルはいつかは崩壊する。

 

マーケットで成功するものは強欲になりすぎず、かといって悲観的になり過ぎないことが求められる。

だがその道は言うは易く行うは難し。20の教えはその道がどれだけ厳しいのかを伝えてくれる。

 

 

1.二次的思考をめぐらす

2.市場の効率性(とその限界)を理解する

3.バリュー投資を行う

4.価格と価値の関係性に目を向ける

5.リスクを理解する

6.リスクを認識する

7.リスクをコントロールする

8.サイクルに注意を向ける

9.振り子を意識する

10.心理的要因の悪影響をかわす

11.逆張りをする

12.掘り出し物を見つける

13.我慢強くチャンスを待つ

14.無知を知る

15.今どこにいるのかを感じ取る

16.運の影響力を認識する

17.ディフェンシブに投資する

18.落とし穴を避ける

19.付加価値を生み出す

20.すべての極意をまとめて実践する

 

1.二次的思考をめぐらす

ハワードは将来に関する思考を二つに分ける。

一つ目が、一次的思考である。一次的思考は単純で底が浅く誰でもできることである。

「この企業の見通しはいいから株価は上がる」「経済状況は良好だから投資すべき」

 

二つ目がホークスが推奨する二次的思考だ。二次的思考は奥が深く入り組んでおり、脳にかかる負荷は一次的思考に比して著しく大きくなる。

「今後どのような範囲の出来事がおきるか」「その中で実際に起きることはどのくらいの確率で生じるのか」「コンセンサスの予想はどうか」「自分の予想はコンセンサスとどう違うか」「その資産の価格は、コンセンサスと自分が考える先行き見通しに見合っているか」「価格に織り込まれているコンセンサス心理は弱気すぎたり強気すぎたりしないか」「コンセンサスあるいは自分の予想が的中した場合、その資産価格はどうなるのか」

 

二次的思考の実践はシンプルさの対局にある。成功はシンプルな一次的思考でもたらされることはない。

 

2.市場の効率性(とその限界)を理解する

みな一度は耳にしたことがあると思う。「マーケットは効率的であり、マーケット参加者はみな冷静で客観的である。」

 

ハワードはこの効率的市場仮設に異議を唱える。

効率的市場仮設は次の事柄を前提としている。

 

・研究熱心で冷静な投資家が数多く存在する

・それらの投資家は知的で熱心で客観的な目を持ち、十分なスキルがある

・みな利用可能な情報をほぼ同時に入手することができる

・みな自由にあらゆる資産を買ったり、売ったり、空売りできる

 

 さて、これを読んでどう感じただろう。率直に言って「そんなわけない」というのが直感ではなかろうか。

 

とりわけホークスが問題視する前提条件は2つ

一つ目が投資家は客観的であるという記述である。

人は冷徹な機械ではない。特にマーケットの前では強欲で、恐れやすく、嫉妬し、思慮深さを失い、感情に突き動かされ重大な過ちを犯しやすい。

 

二つ目がみな自由にあらゆる資産を買ったり、売ったりできるという前提条件だ。

ほとんどの専門家は特定の市場分野にしかかかわっていない。債券マネージャーや株式マネージャーなどの肩書がその証左だ。

そして、空売りの経験があるマネージャーは少ない。マネージャーも務め人である。

市場が盛り上がっているとき、「相場は崩れます!空売りしましょう!」という意思決定を社内で通し切ることは難しい。

 

完全に効率的な市場は存在しないのであり、その非効率性こそが投資パフォーマンスの必要条件であるのだ。優れた投資家はその非効率性を見出し、本質的価値より低い値段で放置されている投資対象を見つけ出すのだ。

 

3.バリュー投資を行う

投資アプローチは大きく二つに分かれている。ファンダメンタルズアプローチとテクニカルアプローチだ。

 

ホークスはファンダメンタルズアプローチを選ぶ。

彼に言わせればテクニカル分析など運任せと同じだ。チャートを占って未来がわかるわけがない。

 

ファンダメンタルズ分析はさらに二つに分かれる。バリュー投資とグロース投資だ。

バリュー投資は今現在の資産の本質的価値を見出す。グロース投資は将来の成長性を予測しようとする。

 

両者は密接に絡みあっており、どちらも無視することはできないが、ホークスはバリュー投資に重きを置く。なぜなら将来の本質的価値や成長性を予測することは困難であり、不確実性が大きいからだ。

 

4.価格と価値の関係性に目を向ける

ではバリュー投資を行うということは、資産の本質的価値を見出し、価値に対して割安な価格の投資先を見つけることを意味する。

では価格は何によって決まるのか。大きく二つ。①テクニカル要因と②心理の二つだ。

①テクニカル要因は本質的価値とは無関係に、証券の需給によるもの。例えば信用取引を行っていた投資家が追証のために行う投げ売りなどだ。最良の方法とはどんな価格でも売らざるをえない人から買うことだ

 

②心理は本質的価値とは異なり、短期的に価格に大きな影響を与える。

ゆえにほかの投資家の心理=価格を読むこと、ほかの投資家が弱気で安くとも、本質的価値の高いものに投資することが求められる。

 

5.リスクを理解する

リスクとはボラティリティのことではない。リスクとは端的に資金を失う可能性のことである。リスクを評価する客観的な指標などは存在しない。

 

6.リスクを認識する

 リスクと価格とは密接に関係している。リスクの低いものはどんな価格でも買う、リスクが高いものはどんな価格でもかわない。このような態度はリスクの認識として正しくない。

 

この常識と相反する結論をホークスは「リスクのあまのじゃく現象」と呼称する。

誰もが高リスクと考える資産はまったく危険ではない価格水準にまで下落する。これは最もリスクが低い資産になりうるのである。なぜなら価格に楽観的な材料が何一つ織り込まれていないからだ。

そしてリスクが低いと思われている資産は高騰し、真のリスクは高値で顕在化することになる。

 

7.リスクをコントロールする

長期的に投資で成功するためには、同じリスクで高いリターンを上げるより、低いリスクで同じリターンを上げるほうが良い。

利益を出した数よりも、損を出した数とその規模、すなわちリスクコントロールの手腕が投資の成否を決めるのだ。

 

8.サイクルに注意を向ける

ほとんどすべてのものにサイクルが存在する。

原則①ほとんどすべての物事にはサイクルがあることが判明する

原則②利益や損失を生み出す大きな機会は周りの者が原則①を忘れた時に生じる

 

とりわけ信用サイクルは重要だ。

好調な経済→資本提供する金融機関が繁盛して資本基盤を拡大する→融資や投資のリスクが低下したようにみえる→リスク回避志向が消える→金融機関が資金供給拡大を行うが、マーケット競争のために金利引き下げ、与信基準緩和を行う→本来融資に値しない投資先への融資が行われる→資金回収が困難になる→損失を出した貸し手の融資態度が厳しくなる→リスク回避志向が強まり、金利の引き上げや与信基準の厳格化が生じる→利用可能な資本の規模が縮小→企業の資金不足→債務借り換え不可能→デフォルトや倒産、投げ売り→これが悪循環を生む

 

9.振り子を意識する

投資家心理は振り子のように変動する。投資家のリスクとは機会損失リスクと、損をするリスクの二つだ。市場サイクルと同じく、投資家の心理も揺れ動くのだ。

 

10.心理的要因の悪影響をかわす

市場コンセンサスと反対のポジションをとることは投資家に大きな心理的疎外感を感じさせ、コンセンサスに飛び立ちたくなる誘惑が強まる。

 

11.逆張りをする

心理的要因の悪影響を認識して逆張りを行うことだ。それには健全な懐疑主義が必要だ。

楽観主義が行き過ぎたときに、懐疑主義悲観主義をもたらす。そして悲観主義が行き過ぎたときに、懐疑主義が楽観主義をもたらすのだ。

 

繰り返しだが、投資とは居心地の悪さを伴うものだ。買うことが心地いいとき、価格はお買い得ではなくなっているのだ。

 

12.掘り出し物を見つける

掘り出し物とは人々が実態よりも著しく悪い印象を抱いている状況で生じる。

・あまり知られておらず、理解されていない

・一見ファンダメンタルズに問題がある

・議論の的になっていたり、恐れられている

・人気がない

・リターンが低迷している

・買い増しよりも削減の対象になっている

 

13.我慢強くチャンスを待つ

高リターンが期待できるチャンスは常に現れるわけではない。

低リターンの環境で高いリターンを生み出すには、時流に乗って数少ない勝ち組を見つけ続ける必要があり、それは高いスキルと、高いリスクへの耐性、そして幸運が必要である。

低リターンの環境で積極的に動く必要などない。資産のほうがこちらへ向かってくる。すなわち売られるまでじっくり待っていればいいのだ。

 

14.無知を知る

15.今どこにいるのかを感じ取る

予測できる範囲には限りがある。未来余地は不可能だし意味がない。

ただし、市場サイクルや投資家心理の振り子が今現在どの位置にあるのかを見出す努力は行うべきだ。将来の動きが予測できるわけではないが、起こりそうな事態に備える手助けにはなる。

 

 

 

 

16.運の影響力を認識する

「成功」した投資が実力によるものなのか、運によるものなのかはわからない。

往々にして上昇相場では人は時の運に基づくリターンを自らの実力とすり替える。

 

大切なのは資産の本質的価値に確固たる信念を持つこと、そしてそれとサイクルや投資家心理との差を考えることだ。

 

17.ディフェンシブに投資する

アグレッシブな投資は上昇相場では大きなリターンを生むが、その逆が起こると怖い。

ゆえにディフェンシブな投資をお勧めする。

 

18.落とし穴を避ける

投資家が何よりも行うべきは、高いリターンを上げることではなく、いかに落とし穴を避けるか、損失を出さないようにするかだ。

 

ほとんどの投資家はごく間近な過去を未来に投影している。第一に重大な金融事象の多くが長いサイクルの中で起きるため、極端な状況を経験したものが次に同じようなことが生じる前に表舞台から消えていること。第二に、ガルブレイスが指摘したように、金融に関する記憶が持続する期間は極端に短い。第三に、過去の経験を思い出す機会は、「確実な儲け話」の声にかき消される。

 

「確実におこらない」という仮定はかえってそれが起きる可能性を高める。

なぜなら絶対にそれが起こらないと考える人がリスクの高い行動をとって環境を変えてしまうからだ。

 

19.付加価値を生み出す

市場平均を上回るリターンを生み出すことが必要である。ただし、相場が悪い時期に限る。相場がいいときには市場平均並みのリターンでいい。悪いときに市場平均を上回ることが付加価値を生む。

 

20.すべての極意をまとめて実践する

すべて実践する。

 

いやはやすべて実践するとなると、、、

やはり投資は難しいということを再認識させられる。